
「数か月待つ」と聞いたら、まず何を待つのかを分けて考える
上の奥歯を抜いたあとに「骨が薄いので骨造成を」と言われ、ソケットリフトなら約3か月、サイナスリフトなら約8〜10か月と聞くと、その間は治療が止まっているように感じるかもしれません。この待機は、骨がつくられる時期と、人工歯根が骨と結合する時期に分かれます。この記事では、それぞれの時期に何が起きているのかと、担当医に確認したい点を整理します。
この記事の要点まとめ
- 骨造成後は新しい骨が育つ期間と、埋入後に人工歯根が骨と結合する期間があり、待機の意味を分けて確認します。
- ソケットリフトは約3か月、サイナスリフトは造成後約8〜10か月が目安ですが、骨量や治癒経過で異なります。
- 埋入時期は診察や歯科用CTを踏まえて判断し、服薬や通院、仕事・家族の予定も担当医に相談しましょう。
骨造成の待機期間はなぜ必要?「骨をつくる時期」と「人工歯根が結合する時期」
抜歯後に顎の骨が痩せると、上の奥歯の治療にどう影響する?
歯を抜くと、その歯を支えていた骨には噛む刺激が伝わらなくなり、幅や高さが少しずつ減っていきます。「抜歯すると痩せる」という言い方は、多くの場合、体重ではなくこの骨の変化を指しています1。上の奥歯のすぐ上には上顎洞という空洞があり、この部位はもともと骨の高さが限られやすい場所です。インプラントは噛む力を骨で受け止める治療です。そのため、骨量が足りないときは骨造成で土台を補う方法が検討されます2。
移植材の周囲に血管や新しい骨ができるまで
移植材を入れた直後は、粒子のすき間を血液が満たしているだけの状態です。そこへ血管が入り込み、骨をつくる細胞が集まることで、新しい骨が少しずつ形成されていきます。上顎洞の底を持ち上げる処置の研究をまとめた報告では、治癒期間が長いほど新しい骨の割合が増える傾向が示されています3。その一方で、6か月の時点でも移植材の粒子が残っていたという報告もあります4。待機期間は傷口が閉じるのを待つ時間ではなく、骨が育つのを待つ時間です。
人工歯根と骨の結合は、埋入後に始まる別の待機期間
骨造成のあとにインプラントを埋入すると、人工歯根の表面に骨が密着していく、もう一つの期間が始まります2。つまり「造成から埋入まで」と「埋入から人工歯を装着するまで」は、それぞれ別の待ち時間です。予定表に書かれた月数がどちらを指しているのかを最初に確かめておくと、先の見通しを立てやすくなります。
ソケットリフトは約3か月、サイナスリフトは約8〜10か月と言われる理由
ソケットリフト:残る骨の量によっては埋入と同時に行う
ソケットリフトは、インプラントを入れる穴から上顎洞の底を少しだけ持ち上げ、そこに移植材を補う方法です。残っている骨である程度インプラントを支えられる場合は、埋入と同時に行われます2。このときの約3か月は、造成した部分の治癒と、人工歯根と骨の結合を並行して待つ期間を指すことが多くなります。
サイナスリフト:広い範囲を造成し、埋入を後日に分ける場合
骨がかなり少ない場合は、頬側の歯ぐきから上顎洞に到達し、広い範囲に移植材を入れます。骨ができていることを確認してから埋入する進め方では、造成後に約8〜10か月待ち、さらに埋入後の結合期間が加わります。その結果、治療全体で1年〜1年4か月程度になることがあります。新しい骨の量は移植材の種類や治癒期間によって異なると報告されているため34、月数がどこからどこまでを指すのかは、症例ごとに確認が必要です。
GBRや自家骨移植では、造成範囲も予定を左右する
骨の幅が足りないときに行うGBR(骨誘導再生法)や、ご自身の骨を使う自家骨移植でも、造成する範囲や元の骨の状態によって期間は変わります2。術式の名前だけで予定が決まるわけではない点を覚えておくと、提示された期間を落ち着いて受け止めやすくなります。
待機を終えて埋入に進めるか、診察と歯科用CTで確かめること
診察と歯科用CTで見る骨の厚み・高さと治癒の状態
再診では、歯ぐきの色や腫れ、傷の閉じ具合を確認します。あわせて歯科用CTを使い、造成した部分の骨の厚みや高さ、移植材の広がりを立体的に確かめます2。ただし、画像だけで骨の成熟度まで断定することはできません。診察で得られた所見と合わせて判断します5。予定の月数が過ぎたというだけで、埋入の時期が決まるわけではありません。当院に限らず、埋入時期は診察の所見と画像を踏まえ、個別に判断する必要があります。
喫煙・全身の病気・骨粗鬆症の薬は事前に伝える
喫煙や糖尿病は血流や傷の治りに影響するため、治癒の見通しが変わることがあります62。骨粗鬆症の治療薬を使っている方は、薬の種類と使用期間、過去の抜歯歴もあわせて担当医に伝えてください。顎骨壊死が気になる場合でも、薬を自分の判断で中断せず、処方医と歯科医師が相談して方針を決めるのを待つことが基本です5。
腫れが長引く・骨吸収が疑われるときは予定の見直しを相談
術後の腫れは数日で落ち着くことが多いものです。一方で、いったん引いた腫れが再び強くなる、膿が出る、発熱が続くといった場合は、早めに連絡しましょう5。感染や移植部の骨吸収が疑われるときは、診察と画像での確認を行ったうえで、次の処置の時期を見直します2。
愛知県で仕事と家族の予定を組む前に、担当医へ聞きたいこと
処置後の勤務や家事は、どの程度調整が必要?
処置の当日から数日間は、激しい運動や長時間の入浴、飲酒を控えるよう説明されるのが一般的です。上顎洞に関わる処置では、鼻を強くかむ動作や、口を閉じたままくしゃみをする動作にも注意が求められます2。シフト勤務の方は、介助のように体に力が入る業務をいつから再開できるかも、あらかじめ確認しておくと予定を組みやすくなります。
再診・画像検査・埋入・人工歯まで、どの時点で通院する?
抜糸、経過の確認、CT撮影、埋入、結合の確認、型取り、人工歯の装着と、通院の節目はいくつもあります。愛知県内で勤務先やご家族の通院先と行き来している方は、各段階のおおよその時期を勤務表に書き込んでおくと、調整がしやすくなります。人工歯が入ったあとも、定期的なメンテナンスでインプラント周囲の歯ぐきや骨の状態を確認していく必要があります。
骨造成は自由診療(公的医療保険の適用外)です。一般的な費用の相場は、骨造成の処置のみで、ソケットリフトが1か所あたり5万〜15万円程度、サイナスリフトが片側あたり15万〜40万円程度とされています。インプラント本体の埋入手術や人工歯、CT検査などの費用は別にかかるのが一般的です。治療期間は、ソケットリフトで約3か月、サイナスリフトで造成後約8〜10か月に埋入後の結合期間が加わります。通院回数は、検査・処置・抜糸・経過確認・埋入・型取り・人工歯の装着までを含めて、一般的にソケットリフトで5〜8回程度、サイナスリフトで8〜12回程度が目安とされ、経過によって増えることがあります。一般的な相場は当院の費用ではありません。実際の費用や通院回数は医療機関や処置の範囲によって異なり、当院の費用と通院の予定は診察のうえでご案内します。
骨造成の主なリスク・副作用として、処置後に腫れ、痛み、内出血(頬やあごのあざ)、鼻からの出血が出ることがあります。また、傷口や移植部の感染、上顎洞の粘膜が破れる(穿孔)こと、上顎洞の炎症(副鼻腔炎)、移植材の漏れ出しや脱落、骨が予定どおりにできないことなどが起こる場合があり、その際は再度の処置や治療計画の変更が必要になることがあります。
自分の待機期間は何を待つ時間か、CTを見ながら尋ねる
受診の際は、次のような質問を手元に用意しておくと、話が具体的になります。
- 残っている骨の高さはどのくらいか
- 埋入は造成と同時に行うか、段階を分けるか
- 提示された月数は、どこからどこまでを指すのか
- 次に骨の状態を確認するのはいつか
CTの画像を一緒に見ながら尋ねると、ご自身の場合の見通しがつかみやすくなります。勤務表とご家族の予定表を持参すれば、通院日の候補までその場で相談できます。
よくある質問
Q. 骨造成の成功率はどのくらいですか?
A. 研究によって条件や評価の方法が異なるため、一律の数字では示しにくいのが実情です。骨の状態、喫煙の有無、全身の病気、術後の清掃状況などによって経過は変わります。ご自身の条件での見通しは、担当医に確認してください。
Q. 骨粗鬆症の薬を使っていても、骨造成やインプラントは検討できますか?
A. 薬の種類や使用期間、全身の状態によって判断が変わります。顎骨壊死への懸念がある場合も、薬を自分の判断で中断せず、まずは服薬内容を担当医に伝えてください。必要に応じて、処方医と連携して方針を決めます。
Q. 待機中にカルシウムを多くとれば、骨は早くできますか?
A. 骨の健康には、カルシウムを含むバランスのよい食事が役立ちます。ただし、特定の食品によって待機期間が短くなるとは言えません。食事の量や内容は、術後の説明に沿って整えましょう。
Q. 待機期間中は、毎月通院が必要ですか?
A. 術式や経過によって異なります。処置の直後は通院の間隔が短く、その後は数か月ごとに経過を確認する場合もあります。次に来院する時期は、その都度確認しておくと予定を立てやすくなります。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
2. 日本口腔インプラント学会 https://www.shika-implant.org/
3. Danesh-Sani SA, Engebretson SP, Janal MN. Histomorphometric results of different grafting materials and effect of healing time on bone maturation after sinus floor augmentation: a systematic review and meta-analysis. J Periodontal Res. 2017. PMID: 27534916 / DOI: 10.1111/jre.12402
4. Kungvarnchaikul I, Subbalekha K, Sindhavajiva PR, et al. Deproteinized bovine bone and freeze-dried bone allograft in sinus floor augmentation: A randomized controlled trial. Clin Implant Dent Relat Res. 2023. PMID: 36628938 / DOI: 10.1111/cid.13179
5. 公益社団法人 日本歯科医師会 https://www.jda.or.jp/
6. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
福岡大学病院歯科口腔外科入局
白十字病院口腔外科非常勤
小文字歯科非常勤(主に往診診療)
加藤歯科医院常勤(愛知県安城市)
あくね歯科クリニック(2008年 副院長就任)
あくね歯科クリニック(2014年7月 院長就任)
ICOI(国際インプラント学会)アメリカ 認定医
日本顎咬合学会 認定医
ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト
国際インプラントITIメンバー(International Team for Implantology Membership)
日本歯周病学会
日本顕微鏡歯科学会
日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
日本歯科医師会 愛知県歯科医師会
名古屋市緑区歯科医師会
ライトタッチレーザー会員
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