
奥歯を抜いたあと、強い噛む力とどう付き合うか
ひびの入った奥歯を抜き、歯科医師から食いしばりを指摘されると、次に入れる歯もまた傷むのではと迷うものです。食いしばりがあっても、診査の結果によってはインプラントを含む複数の方法が候補になります。この記事では、噛む力の影響、診察で確かめる点、費用や通院について歯科医師に尋ねたいことを整理しました。
この記事の要点まとめ
- 食いしばりがあっても、診査結果によってはインプラントが候補となり、噛む力への配慮と治療後の管理が検討されます。
- CTや噛み合わせ、骨・服薬状況を確認し、インプラント・ブリッジ・入れ歯などから治療法を相談します。
- 費用や通院回数、追加処置、ナイトガードと定期点検の内容を事前に確認し、生活予定も踏まえて計画します。
食いしばりがあると、抜歯後のインプラントは難しい?

食いしばりがあるだけで、インプラントが候補から外れるわけではありません。ただし、力の影響を見込んだ計画と、治療後の管理が前提になります。
人工歯根には、天然歯と違って力を和らげる仕組みがない
天然歯の根の周りには、歯根膜(歯と骨をつなぐクッションのような膜)があります。人工歯根(インプラント体)は骨と直接結合するため、強い力が骨や人工歯、部品へ伝わりやすいとされています1。
力をどう受け止め、どう分散させるかを、治療前から考えておく必要があります。
人工歯の破損と骨吸収は、同じものとして考えてよい?
分けて考えるのが自然です。歯ぎしりに伴うインプラントの技術的なトラブルとして、人工歯などの部品やフレームの破損、ネジの緩みが報告されています1。
一方、骨吸収との関係は研究によって結果が分かれ、はっきりしない部分も残ります2。歯ぐきの炎症など別の要因もあるため、力と炎症の両面から確認します。
食いしばりで歯を失うことはある?
歯を失った原因は、歯ぎしりだけでは判断できません。インプラントでは、人工歯などの部品の破損やネジの緩みが報告されています1。歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)は、睡眠中と日中、それぞれの筋肉の活動として捉えられています3。
ただ、40代で歯が抜ける背景には、むし歯や歯周病もよく見られます。原因を一つに決めつけず、口全体を診ることが次の治療選びの手がかりになります。
ポイント
食いしばりはインプラントを諦める理由ではなく、計画と管理で配慮する条件の一つです。
治療を進めるか、何を診て判断する?
食いしばりの強さは一つの数値では区切りません。歯の傷み方、噛み合わせ、骨、全身の状態を合わせて見たうえで、力への対策を先に行うか、埋入の時期を見直すかを決めていきます1。
歯の摩耗や朝の顎の疲れを、どう診察に伝える?
問診では、思い当たることを具体的に伝えてください。
- 家族に歯ぎしりの音を指摘されたことがある
- 繁忙期など、朝に顎が疲れていることが多い
- 以前、被せ物が欠けたり外れたりした
夜間の自覚がなくても、歯のすり減りや欠け、顎関節の動き、噛み合わせから力の強さを推測できます31。症状が強ければ、埋入前に力への対策を相談するのが一般的な進め方です。
奥歯の骨と噛み合わせは、治療計画をどう変える?
歯科用CTで抜歯部の骨の厚みや神経の位置を立体的に確認し、残る歯との噛み合わせ、欠損の位置や本数も合わせて計画します。奥歯は力が大きいため、人工歯の形や本数で力を分散させる工夫が検討されます1。
骨や歯ぐきが足りなければ、すぐには埋入せず、抜歯部の骨の温存や骨を補う処置を先に行い、その分通院期間が延びることもあります。当院では、機器から得た情報も踏まえ、感覚や経験だけに頼らず、噛み合わせを含めた診査・診断と治療計画を土台にすることを大切にしています。
骨粗鬆症の薬や服薬歴も伝える必要がある?
はい、伝えてください。骨粗鬆症の治療薬を使っている場合、抜歯やインプラント治療について歯科医師と主治医にご相談ください。これは食いしばりによる骨吸収とは別の話です。
リクシアナなどの抗凝固薬やロスバスタチンも含め、お薬手帳で一覧にして見せましょう。自己判断で薬を中止しないことも、併せて覚えておいてください。
奥歯を補う方法は、食いしばりを踏まえてどう選ぶ?
インプラント、ブリッジ、入れ歯のいずれも候補になります。力のかかり方だけでなく、周りの歯への負担や毎日の手入れも比べて選びます。
| 方法 | 周りの歯への影響 | 食いしばりで気をつけたい点 | 主な手入れ |
|---|---|---|---|
| インプラント | 支えにしない | 人工歯の欠け・部品の緩み | 定期点検と専用の清掃 |
| ブリッジ | 両隣の歯を整えて支えにする | 支えの歯への負担 | 人工歯の下の清掃 |
| 入れ歯 | バネをかける歯に負担がかかる場合がある | 歯ぐきの痛み・装置の破損 | 取り外して洗浄 |
表は一般的な傾向で、残る歯や骨の状態によって向き不向きは変わります。
インプラントなら、周りの歯を削らずに済む?
多くの場合、両隣の歯を支えにしないため削らずに済みます。強い食いしばりが疑われるときは、人工歯の素材や形、ナイトガードの併用まで含めて計画します21。
インプラントは公的医療保険が適用されない自由診療です。一般的な目安は次のとおりです。
- 治療期間: 埋入手術から人工歯の装着まで、おおむね3〜6ヵ月程度。骨を補う処置が必要な場合は、さらに数ヵ月延びることがあります
- 通院回数: 検査・診断、埋入手術、経過確認、型取り、人工歯の装着などで、一般に5〜10回程度
- 費用: 奥歯1本あたり、検査・手術・人工歯を含めて30万〜50万円程度。骨を補う処置が加わる場合は、数万〜十数万円程度の追加になることがあります
これらは一般的な相場であり、当院の費用ではありません。当院の費用は診察のうえでご案内します。
外科処置のため、次のようなリスク・副作用が起こることがあります。
- 術後の痛み、腫れ、内出血(数日から1〜2週間ほど続くことがあります)
- 下あごの神経の近くを処置した場合の、唇やあごの一時的または長引くしびれ
- 傷口の感染、人工歯根が骨と結合しないこと
- インプラント周囲炎(歯ぐきや骨の炎症)による骨の減少
- 人工歯の欠けやネジの緩み(食いしばりが強いと起こりやすいとされています1)
治療後の定期的なメンテナンスで、噛み合わせと歯ぐきの状態を確かめ続けることが、長く使うための前提です。
ブリッジや入れ歯なら、噛む力への対策は不要?
不要とはいえません。ブリッジは支えの歯に、入れ歯はバネをかける歯や歯ぐきに力が集まりやすく、食いしばりがあれば負担はそこへ向かいます1。手術の有無だけで決めず、残る歯の状態や使い心地も一緒に検討しましょう。
ナイトガードを作れば、歯ぎしりはなくなる?
ナイトガード(就寝時に着けるマウスピース)は、解析上、力の集中を減らすことが示されていますが、歯ぎしりそのものがなくなるとは限りません1。通院時には、着けられた日数、違和感、すり減りや割れを一緒に確認します。日中、上下の歯が触れていると気づいたら、そっと離す習慣も役立ちます。
ポイント
どの方法を選んでも、食いしばりの力はどこかにかかります。ナイトガードは力を和らげるもので、歯ぎしりを止めるものではありません。
費用と通院の負担は、治療前に何を尋ねる?
手術や人工歯の費用だけでなく、追加になり得る処置、ナイトガード、治療後の点検まで尋ねておくと見通しが立ちます。
治療費には、どこまでの処置が含まれる?
見積もりを受け取ったら、次の項目が含まれるか確認しましょう。
- 歯科用CTなどの検査と診断
- 骨を補う処置、仮歯、人工歯
- ナイトガードの型取り・製作・調整・再製作と、保険適用の条件
- 破損したときの対応と保証の条件(ナイトガードを使っていない場合の扱いも含む)
インターネットで見かける金額は一般的な相場であり、当院の費用ではありません。実際の費用は医療機関により異なるため、総額と含まれる範囲は診察後に医院へ直接確認してください。
治療後は何回通い、異変があればどうする?
埋入までの待機期間、人工歯を入れるまでの通院回数、ナイトガード完成後の調整や定期点検の間隔は、骨の状態や処置で変わるため個別に尋ねましょう。
人工歯が欠けた、ネジの緩みが疑われる、噛むと痛む。そんなときはその側で噛むのを控え、早めに連絡を。自分で締めたり接着剤で付けたりするのは避けてください1。
仕事と通院をどう両立する?
仕事帰りに通うなら、通院回数、予約が取りやすい時間帯、治療後の点検の進め方を診察時に確かめておくと、計画を立てやすくなります。通院先までの移動時間や交通手段も、事前に確認しておきましょう。
最初の一歩は、歯科用CTでの診査と、抜歯の経緯・朝の顎の疲れ・服薬内容を伝えること。そのうえで、家計や仕事の予定も含めて治療法と治療後の管理を相談してみてください。
よくある質問
Q. 歯ぎしりをしやすい人に特徴はありますか?
A. ストレスが強く疲労したときには眠りが浅くなり、歯ぎしりや食いしばりが助長されることがあります4。大きないびきや睡眠中の呼吸の止まりを家族に指摘された場合は、歯科だけでなく医科への相談が必要になることもあるため、診察時にお伝えください。
Q. 枕を変えると歯ぎしりは改善しますか?
A. 枕だけで歯ぎしりが改善するとは言い切れません。首や肩に力が入りにくい高さを選ぶのは楽な寝姿勢づくりに役立ちますが、歯や人工歯を守る方法は歯科医師にご相談ください。
Q. ナイトガードは市販のものでもよいですか?
A. 合わないものを使い続けると、噛み合わせに影響する場合があります。インプラントや被せ物がある方は、歯科医院で型を取り、調整したものを使うほうが状態を確認しやすくなります。
Q. インプラントの仮歯の期間にも、食いしばりへの配慮は必要ですか?
A. 必要です。仮歯は最終的な人工歯より欠けやすいことがあるため、硬いものを控える、ナイトガードの使用を相談するなど、仮歯の期間の過ごし方を歯科医師と確認しておきましょう。
参考文献
1. Shafiee E, Nourizadeh A. Bruxism in implant-supported rehabilitations: a narrative review of clinical complications and management strategies. BMC oral health. 2025. PMID: 41068723 / DOI: 10.1186/s12903-025-07005-y
2. Häggman-Henrikson B, Ali D, Aljamal M, et al. Bruxism and dental implants: A systematic review and meta-analysis. Journal of oral rehabilitation. 2024. PMID: 37589382 / DOI: 10.1111/joor.13567
3. Manfredini D, Ahlberg J, Lobbezoo F. Bruxism definition: Past, present, and future – What should a prosthodontist know? The Journal of prosthetic dentistry. 2022. PMID: 33678438 / DOI: 10.1016/j.prosdent.2021.01.026
4. No.2 ストレスと口の健康:身体のストレス反応から考える職場のメンタルヘルス対策|コラム(その他)|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト. https://kokoro.mhlw.go.jp/column/body002/
福岡大学病院歯科口腔外科入局
白十字病院口腔外科非常勤
小文字歯科非常勤(主に往診診療)
加藤歯科医院常勤(愛知県安城市)
あくね歯科クリニック(2008年 副院長就任)
あくね歯科クリニック(2014年7月 院長就任)
ICOI(国際インプラント学会)アメリカ 認定医
日本顎咬合学会 認定医
ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト
国際インプラントITIメンバー(International Team for Implantology Membership)
日本歯周病学会
日本顕微鏡歯科学会
日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
日本歯科医師会 愛知県歯科医師会
名古屋市緑区歯科医師会
ライトタッチレーザー会員
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