「インプラント手術をした後、歯がないまま過ごさなきゃダメなのかな?」
「手術直後から患部で食べ物を噛めるの?」
インプラント手術をした後は、状況に応じて仮歯を入れます。手術から2週間程度で仮歯を入れることが多いですが、奥歯は仮歯を入れないケースもあります。
仮歯は見た目をカバーすると共に、歯並びを維持するなど、お口の機能を保つために重要な存在です。
今回はインプラント治療中の「仮歯」の重要性についてご説明します。
目次
■仮歯とは
◎最終的な人工歯が入るまでの一時的な歯
インプラント治療における仮歯とは、最終的な人工歯(上部構造)(本歯)が入るまでに用いる一時的な歯です。
最終的な人工歯は丈夫なセラミック製が多いのに対し、仮歯は一時的な歯のため、ほとんどの仮歯はプラスチック樹脂のレジンでできています。
■仮歯を入れるタイミング
◎抜糸後に入れることが多いです
手術から2週間程度経った、患部の抜糸後に仮歯を入れることが多いです。
目立ちやすい前歯は手術当日に仮歯をご希望される方が多いのですが、患部を刺激しないようにするため、やはり抜糸後に仮歯を入れるのが望ましいです。
力がかかりやすい奥歯は仮歯を入れると患部を刺激してしまい骨結合が阻害されるおそれがあるため、顎の骨の状態によっては奥歯には仮歯を入れない場合もあります。
■仮歯を入れる期間
◎手術後は3~6ヶ月間程度、仮歯を入れて過ごしていただきます
インプラント手術後は埋め入れたフィクスチャーが顎の骨と結合し安定するまで、3~6ヶ月間程度、仮歯を入れて過ごしていただきます(※)。
(※)患者様や顎の骨の状態によって仮歯の期間
(安定までにかかる期間)が異なります。
■なぜ、手術当日に仮歯や本歯を入れないの?
◎手術当日に仮歯を入れるとフィクスチャーと顎の骨の結合がさまたげられるおそれがあります
手術で入れたフィクスチャーは3~6ヶ月間程度かけ、少しずつ顎の骨と結合していきます。特に手術をした直後はもっとも患部が敏感な時期です。手術当日など、手術をしてすぐに仮歯を入れると仮歯で噛んだときの衝撃によってフィクスチャーと顎の骨の結合がさまたげられてしまい、フィクスチャーが定着しなくなるおそれがあります。
このため、手術をしたらすぐに仮歯は入れずにある程度患部の状態が落ち着くのを待ちます。おおむね、手術後2週間程度経ち抜糸のタイミングになるとある程度患部の状態が落ち着くため、抜糸後に顎の骨や歯ぐきの状態を見ながら慎重に仮歯を入れるのがインプラント治療では一般的な方法です(※)。
(※)抜糸のタイミングは患者様や顎の骨の状態によって異なります。
{即時荷重インプラントについて}
即時荷重インプラントと言う、手術をしてから48時間以内に仮歯を入れる方法もあります。ただし、顎の骨の骨量が十分に足りていること、即時荷重用のインプラントに患部が適合すること、などの条件があり、即時荷重インプラントを受けられる方は限られます。
◎顎の骨が安定する前に本歯を入れるとインプラントの高さや位置がずれてしまうことがあります
患者様によっては「なぜ、インプラント手術当日に本歯を入れないのですか?」と不思議に思われる方もいらっしゃいます。手術後、すぐに本歯を入れないのは以下のような理由があるためです。
インプラント手術後は3~6ヶ月間程度かけ、埋め入れたフィクスチャーが顎の骨と少しずつ結合していきます。結合までのあいだは顎の骨の高さや硬さが徐々に変化していくため、顎の骨が安定する前に本歯を入れると周りの歯に対して人工歯の高さや位置がずれてしまうおそれがあるのです。
上記の理由から、インプラント手術後すぐには本歯を入れません。手術後は仮歯を入れて3~6ヶ月間程度待ち、フィクスチャーが顎の骨と結合して安定した状態になっていることを確認した上で、周りの歯との高さを見ながら慎重に本歯を入れていきます(※1)(※2)。
(※1)奥歯など、歯の位置や、顎の骨の状態に
よっては仮歯を入れない場合があります。
(※2)患者様や顎の骨の状態によって仮歯の期間
(安定までにかかる期間)が異なります。
■仮歯の重要性
見た目のカバーに加え、仮歯には歯やお口の機能を維持する役割もあります。
①見た目をカバーする
インプラント手術後、歯がないと見た目の問題が生じることがあります(特に前歯は歯がないと目立ちます)。手術後の見た目をカバーするため、前歯のインプラント治療では仮歯を入れることが多いです。
患部の状態によっては、目立ちにくい奥歯には仮歯を入れないことがあります。
②歯並びの乱れを防ぐ
歯がない状態が長く続くと隣の歯が倒れてきて全体の歯並びが乱れることがあります。歯がない部分に噛み合わせの歯が伸びてきてしまうことも。
仮歯を入れることで歯のすき間を埋められ、歯並びの乱れを防ぎやすくなります。
③発音の支障を防ぐ
歯がないままでいると発音に支障が出やすいです。特に前歯がないと歯のすき間から空気が漏れてしまい、サ・タ・ナ・ラ行の発音に支障が出ることがあります。
仮歯を入れることで空気の漏れを抑えられ、インプラント手術後の発音や会話に支障が出にくくなります。
■インプラント治療中の仮歯の注意点
インプラント治療中、フィクスチャーが顎の骨と結合して安定するまでの期間は仮歯で過ごしていただきます。
ただし、仮歯はあくまでも“仮の歯”です。天然歯や本歯と同じような感覚で仮歯は使えません。トラブルを防ぎ、インプラント治療を成功に導くため、仮歯の期間は以下の点に注意してください。
注意点1.仮歯で硬い物や弾力がある物は噛まない
インプラント手術後、仮歯で硬い物や弾力がある物は噛まないでください。仮歯で硬い物や弾力がある物を噛んでしまうと骨結合がさまたげられ、フィクスチャーが定着しなくなるおそれがあります。
治療中は氷、飴玉、スルメ、おせんべい、フランスパン、噛みごたえのある肉など、仮歯で硬い物や弾力がある物は噛まないように気をつけましょう。
硬い物や弾力がある物に限らず、治療中はできるだけ仮歯で噛まないようにすることが大切です。仮歯でやわらかい物は噛めます。しかし、やわらかいと思って食べた物が硬かったり弾力がある場合は不測の事態をひき起こす可能性があります。食事の際はできるだけ患部に刺激を与えないように注意してください。
注意点2.歯につきやすい物は控える
キャラメルやハイチュウ、ガム、水あめ、グミなど、歯につきやすい物は仮歯が破損したり取れてしまう原因になることがあります。仮歯の期間は歯につきやすい物は控えてください。
注意点3.歯みがきのときに強い力で仮歯を磨かない
インプラントの治療中の歯みがきでは強い力で仮歯を磨かないように注意してブラッシングしてください。
歯みがきのときに強い力で仮歯を磨いてしまうと、刺激によってフィクスチャーと顎の骨の結合がさまたげられるおそれがあります。また、仮歯はプラスチック製のため、強い力で磨くと傷がつきやすいです。仮歯に傷がつくと傷の溝に歯垢や食べカスが付着しやすくなり、むし歯・歯周病になるリスクが高まります。
仮歯に限らず、歯みがきでは歯や歯ぐきを傷つけないようにすることが大切です。歯みがきの際はペンを持つように軽く歯ブラシを持ち、軽い力でブラッシングしてください。
注意点4.仮歯の破損や不具合を放置しない
仮歯に破損や不具合が起きたときにそのまま放置すると歯並びや噛み合わせが乱れたり、発音に支障が出ることがあります。また、仮歯が破損した状態は見た目も良くありません。
仮歯が破損したり不具合が起きたときは速やかに歯科医師にお伝えください。状態を確認し、仮歯の修理・作り直しを行います。
注意点5.仮歯のまま治療を中断しない
仮歯が入り、「これでいいや」と仮歯のまま治療を中断するのはやめてください。仮歯はあくまでも仮の歯のため、本歯のような耐久性の高さや美しさはありません。
仮歯で治療を中断してしまうと食べ物を噛んだときに仮歯の破損や不具合を起こしたり、仮歯が汚れて見た目が悪くなるおそれがあります。仮歯の不具合によって歯並びや噛み合わせの乱れがひき起こされることも。
【仮歯の期間の注意点を守り、インプラント治療を成功に導きましょう】
インプラント手術後の1年間はもっともトラブルが起きやすい時期です。特に仮歯が入っている3~6ヶ月間はできるだけ患部に刺激を与えないようにしましょう(※)。
(※)患者様や顎の骨の状態によって仮歯の期間
(安定までにかかる期間)が異なります。
インプラント治療を成功に導くため、仮歯の期間は今回お伝えした注意点を守ってお過ごしください。